Yuki Shirahama Bottier(ユウキ シラハマ ボティエ)では、創業以来「フルハンド・ビスポークシューズ」の可能性を追求し続けています。私達の靴作りは、単にサイズを合わせるだけではありません。お客様の歩み、装い、そして人生に寄り添う一足を、自社アトリエにて全工程ハンドメイドで仕立て上げます。
これまで私達が一足一足、心血を注いで作り上げてきたビスポークシューズは1,000足を数えます。その一足ごとに異なる悩み、こだわり、反映される喜びがありました。その膨大な経験のすべてを、今目の前にある一足へと注ぎ込み、お客様の理想を形にします。

Measurement & Observation
身体の声に耳を傾ける「採寸」
ビスポークシューズの製作は、足の丁寧な採寸から始まります。お客様の足をじっくり観察し、足の輪郭や、前足部、中足部の周径、体重のかかり方、歩行の癖、扁平足や外反母趾といった骨格の特徴を記録していきます。さらには、その一足がどのようなシーンで使用されるものなのか。対話を通じてその目的を詳細に共有し、木型の設計指針へと反映させていきます。
私のルーツの一つに、スポーツシューズメーカーでの経験があります。そこでは12,000人分もの足型データに基づいたベースラスト製作に携わってきました。この科学的な知見とこれまでの経験は、お客様が言葉にされない微細な感覚を解き明かし、深く理解するための確かな指針となっています。
この対話を担当する私自身が、その後の木型製作から仕上げまでを一貫して担うことで、数値には現れない「感覚的なフィット感」を正確に設計図へと落とし込んでいきます。

Last Making
数値を超えた、理想のシルエットを削り出す
測定結果をもとに、お客様の専用の「ラスト(木型)」を製作します。
木材から削り出されるラストは、お客様の足型を正確に再現するだけでなく、靴としての美しさ(プロポーション)も同時に追求します。
ここでは、私の背景にある運動特性の知見が一足一足の設計に深く浸透しています。例えば、ゴルフシューズであればスイング時の母指球への重心移動を考慮し、街歩きの靴であれば着地時の安定感を高める。伝統的なビスポークの造形美の中に、こうした「動くための理論」を忍ばせるのが私のスタイルです。
またラストはたった数ミリの誤差が履き心地を大きく左右します。例えばスリッポンを履いた際、止まっている時には踵に隙間がないのに、歩き出すと踵が抜けてしまうことがあります。これは木型の底面形状が足の裏と乖離していることで、踏み込み時に余計な隙間が生まれてしまうことが原因だったりします。
そのため、私はデザインによってもラストの設計を緻密に変化させています。長年積み上げてきた経験と、お客様の歩む姿を思い描く想像力を駆使し、立ち姿が美しく、かつ長時間歩いても疲れない「理想」を、私の手で形にしていきます。


Pattern Making & Clicking
3次元の美を平面へ、そして素材の命を読み解く
ラストが完成すると、次にラストにデザインラインを引きます。
その後、立体的な曲線美を平面へと写し取る型紙(パターン)製作に入ります。木型に直接描かれたデザインラインは複雑な3次元の曲線ですが、これを正確に平面へと展開しなければなりません。
この工程の目的は、アッパー(甲革)を木型へ寸分違わず沿わせることにあります。ここで設計を疎かにすると、吊り込みの際に革に無理な皺が寄ったり、逆に木型との間に隙間が生じたりしてしまいます。何よりも重要なのは、全体の「バランス」をきっちりと整えること。木型という立体の個性を活かしつつ、型紙の段階で細部まで緻密に計算し尽くすことで、最終的に木型へ吸い付くような、美しく端正な佇まいが生まれるのです。
型紙が完成し、いよいよ革の裁断(クリッキング)へと進みますが、ここが最も神経を研ぎ澄ませる瞬間です。最高級のレザーであっても天然素材である以上、一つとして同じものはありません。
裁断の前には、革の表面にある「グローイングマーク(成長の跡)」や血筋、微細な傷を徹底的にチェックします。そして革の「繊維の方向(伸びる方向)」を見極めることが不可欠です。革には部位によって伸縮する向きがあり、パーツに合わせて最適な方向を配置しなければ、履き込むうちに形が崩れてしまいます。どの部位を使い、どの方向に刃を入れるか。私たちは素材の命を読み解きながら、一足の靴のために最も贅沢で、かつ理に適ったバランスで正確にパーツを切り出していきます。


Closing & Hand Stitching
繊細さと強度を両立させる「縫製」
裁断された革は、アッパー(甲革)へと仕立てられます。
ミシンによる精密な縫製に加え、必要に応じて施される「ハンドステッチ」や「ブローギング(穴飾り)」「革の手漉き加工」は、ビスポークならではの風格を醸し出します。見えない芯材にまで天然素材にこだわり、履き込むほどに持ち主の足の形に馴染んでいく「余白」を計算して、私達の手で丁寧に縫い上げていきます。
私達が大切にしているのは、年月を経ても損なわれない美しさです。伝統的な装飾技法を用いながら、何年も履き込んだ後にこそ「この靴で良かった」と感じていただけるような、堅実な仕立てを心がけています。


Lasting
革の個性を手繰り寄せ、木型にフィットさせる「吊り込み」
縫製を終えたアッパーを木型に被せ、釘とワニ(専用のプライヤー)を使って形作っていく「吊り込み(ラスティング)」の工程。ここでも、職人の経験値が必要です。
革には種類や部位によって、それぞれに固有の「伸び率」が存在します。この伸びる力を殺さず、かつ余らせず、木型の起伏にぴたりと沿わせるには、指先の感覚を読み取る熟練の感覚が不可欠になります。一気に引けば革は悲鳴を上げ、甘ければ緩みが生じる。その繊細な力加減の集積が、ストレスのないフィッティングを実現します。
そして、靴の横ブレを防ぎ、長年の着用でも型崩れしない「肝」となるのが、サイドを支える「サイドライニング(芯材)」の仕立てです。どのような素材を選び、どのように配置し、吊り込むか。表からは決して見えないこの内部構造にこそ、私たちのビスポークとしての伝統と、歩行を支える堅牢性の真実が宿っています。


Bottom Making
伝統の「ハンドソーンウェルテッド製法」
いよいよ靴に魂を吹き込むボトムメイキング(底付け)です。
私達は、中底の加工から「すくい縫い」「だし縫い」に至るまで、すべてを手縫いで行う伝統的な製法にこだわっています。
麻糸を撚って糸を作り、松脂で作ったワックスを擦り込み、一針ずつ最適なテンションで締め上げる。この力加減こそが、職人の手の技術の証です。これまで積み重ねてきた確かな「縫い」が生み出すのは、圧倒的な返りの良さと堅牢性。また足裏の荷重バランスを整える内部の充填材や、芯材の繊細な厚み調整は、機械による量産品では決して到達できない領域です。
美しく仕上げることは、プロとして当然の義務。しかし、その内側には、表からは見えない独自の技法が隠されています。糸の通し方、革の重ね方、針が通る革の位置、力の入れ方や逃がし方。それら代々受け継がれてきた伝統の知恵と、これまでの経験が、靴の耐久性と堅牢性を極限まで高めています。目に見えない部分にこそ、年月を重ねても損なわれない、ビスポークシューズ本来の強靭な骨格が隠されています。



The Craftsman’s Discipline
200工程を支える「体勢」と「見極め」
ビスポークシューズの製作には、200以上の工程が存在します。これらはすべて一つの流れとして数珠つなぎになっており、一箇所の狂いが最終的な一足の完成度を左右します。だからこそ、手を動かす作業と同じくらい、各工程の最初、途中、最後に行う「見極め(クオリティコントロール)」という確認作業が極めて重要になります。
各工程を支えるのは、「精度」「安定」および「素材の状態管理」です。ここでの「状態管理」とは、適切な革の湿度管理、本底加工時の湿り具合、および吊り込み後に時間をかけてアッパーを木型に沿わせることで形を定着させる一貫した保形などを指します。これらは、季節や気温、湿度の変化によっても、緻密に管理を変化させています。
各工程において、この「精度」「安定」「素材の状態」を厳格に見極め、確信を持ってから次へ進む。この連鎖がなければ、次の工程がうまくいくことは決してありません。この妥協のない積み重ねこそが、私達の「見極め(クオリティコントロール)」の本質です。
また精度と安定を追求するためには、「体勢」(製作に向き合う際の体勢、道具や靴の持ち方、および目線の置き方等)が重要になります。
例えば、ヨーロッパのナイフと日本の革包丁では、道具の持ち方はもちろん、身体の構えや力を入れる筋肉さえも異なります。それぞれの道具が持つ特性を最大限に引き出すための身体の使い分け、および一貫した製作を支える具体的な運刀や所作の細部は、私達個人が長い歳月をかけて身体に定着させてきたものであり、安易に明らかにしたくはありません。それは、何百、何千という靴と向き合う中で自らの中に蓄積していくものです。
知識ではなく、終わりのない積み重ねによって自分のものにする。ビスポークシューズ製作には、そうした独自の「道」があるのだと感じています。自らの身体的な動きを律し、一工程ごとの仕上がりを厳しく見極め続ける。この探求の連続こそが、すべての工程における確かな手応えを生み出します。

The Philosophy of Order Shoes
オーダーシューズにおける、二つの探求
一口に「オーダーシューズ」と言っても、そこには大きく分けて二つの素晴らしいアプローチが存在します。現在広く親しまれているMTO(パターンオーダー)は、確立された規格の中で自分だけの一足を作る喜びを体感できる、非常に優れたオーダーの形だと言えます。
一方で、私たちが現在手掛けている「フルハンド・ビスポークシューズ」は、お客様一人ひとりの個性に深く入り込み、その一人のためだけに一から設計を組み立てる探求の道です。
私達がこの製法に向き合い続ける理由は、お客様の足は文字通り「千差万別」であり、その一つひとつに全く異なる最適解があるからです。例えば、足の骨格が持つ「方向性」と木型の設計がわずかでも噛み合っていないと、小指が執拗に当たって痛むといったトラブルに繋がります。ビスポークでは、まずこの足と木型の方向性を根底から一致させることから始まります。
さらに、ビスポークシューズの強みは、「底面の形状」までをも個別の足に合わせて設計している点にあります。足裏全体に圧力が均一に行き届くよう底面を構築し、設計時に「肉盛り(軟部組織)」の移動を適切に配置する。この緻密な設計があるからこそ、吸い付くような一体感と、無理のない自然で深いフィット感が生み出されるのです。


Finishing
その人にとっての「最良」を届けるために
最後に、革の性質に合わせた保革を施し、幾重にもワックスを塗り重ねて丁寧に磨き上げることで、一足の靴を完成させます。この仕上げこそが、それまでの膨大な工程を一つに結び、お客様が手にする瞬間の喜びを確かなものにする最終段階です。
私達が目指しているのは、単に靴という形を作り上げることだけではありません。意図した通りのデザインと、ストレスのない確かなフィッティングが両立し、心から喜んでいただけること。そして、その一足によってお客様の立ち姿が、より自然で美しいものへと変わること。
「装う人の個性が、自然ににじみ出るような靴」。
伝統と科学的な論理、これまでの製作実績に裏打ちされた感性。そのすべてをこの一足に結集させ、私達は最初の一歩から最後の一磨きまで、責任を持ってお客様の想いを形にします。
Written by Yuki Shirahama
Yuki Shirahama Bottier
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